狩人たちの集い場




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[449] 『ボヘミアの醜聞』#8

投稿者: もふぇりんぎ 投稿日:2018年12月17日(月)20時11分5秒 p565075-ipngn200310otsu.shiga.ocn.ne.jp  通報   返信・引用

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────



 昼間。ST BART’S。
 ダニエルは研究室のパソコンでレントゲン写真を見ている。電話の内部を写したものだ。彼の傍には法医学者が立っている。彼は画面に近寄り、四つの丸く暗くなった部分が電話の内部に写っているのを確認した。悩んでいるようだ。

 「それ、電話?」
 「カメラ付き電話」
 「そしてそれをレントゲンに?」
 「ああ、そうだ」
 「誰の電話?」
 「ある女性の」
 「あなたのガールフレンド?」
 「持ち物をレントゲンしているから、ガールフレンドだと思うのか?」

 法医学者は緊張した様子で笑った。

 「んー、みんな馬鹿なことをするでしょ」
 「ああ」

 彼は画面から顔を離すと突然閃き、彼女を眺めた。

 「彼らもだろうな?実に馬鹿げてる」

 彼女は困惑して彼を見た。ダニエルは立ち上がり、電話をレントゲン機械から取り出して掲げた。

 「彼女はこれを僕の住所に送った、そして彼女はゲームが好きだ」
 「彼女が?」

 ダニエルはまた「I AM _ _ _ _?Locked」の画面を出し、「221B」と入力した。電話は警告音を鳴らし、メッセージが表示された────「パスコードが間違っています。あと2回」

 それを見て彼はイライラしながらまた座った。





 数ヵ月後。221B。二人は買い物から帰ってきたところだった。ダニエルは先にひとりで階段の頂上に着くと不意に違和感を感じてキッチンのドアの外に立ち止まり、深く匂いを嗅いだ。さらに深く呼吸すると向きを変え、キッチンへ入って窓へ歩み寄り、それが開いているのに気付いた。向きを変えて再び匂いを嗅ぎながらゆっくりと寝室へ向かうと、下の階でドアがバタンと閉じられ階段を上がってくる音が聞こえた。自分の部屋に着くとダニエルはドアを押し開けた。ポーレットが買い物袋を提げてキッチンへやって来ると、ダニエルは寝室へ入りベッドを見下ろしたあと、ポーレットが彼に呼びかけた。

 「ダニー?」
 「依頼人が来た」
 「え、寝室から?!」

 ポーレットは通路を歩いて寝室に入った。そしてベッドを見てぽかんと口を開けた。

 「あわわ…」

 そこには、アイリーン────服を着ている────がダニエルのベッドで寝ていた。





 暫くしてアイリーンはダニエルの青いガウンを羽織り、リビングで彼の椅子に座っていた。今日の彼女は髪を下ろしており、一瞬誰かと戸惑うほど魅力的で妖艶な雰囲気があった。そしてダニエルたちはテーブルの前に座り、彼女を見ていた。

 「で、誰が君の後を?」
 「私を殺したがってる連中」
 「それは誰だ?」
 「殺し屋」
 「あの、もうちょっと具体的にしてくれると助かるんだけど」
 「それで、君は奴らから逃げるために死んだと偽装したわけだ」
 「暫くは通用したんだけど」
 「ジャクリーンに生きていると知らせたのを除いて。結果的に僕にもだが」
 「あなたが秘密を守ってくれてるって分かってたわ」
 「君はできなかった」
 「でもあなたはそうしてくれたでしょう?それで、私の電話は何処?」
 「ここにはない。僕らは馬鹿じゃないよ」
 「それであなたは何をしたの?もしあなたが手に入れたと奴らが考えたら、あなたを監視するでしょう」
 「もしあいつらが僕を監視してたとしても、僕がそれを数ヶ月前、ストランドにある銀行の保管金庫に入れたとわかるだろう」
 「んもう、あれが必要なの」
 「んー、そのまま行って取り出すことなんてできないよな?」

 ポーレットはダニエルの方を見て、閃いた。

 「モリー・フーパー。あの、法医学者の!彼女なら回収してBart'sに持ち出せる、そしてダニーのホームレスネットワークがここに持ってくる、カフェに置かせたら下の階にいる男の子のひとりが持ち帰ってくるんだ」
 「とても良いな、ジャクリーン。素晴らしい考えだ、知的な予防策。まさに新しい色気だ」

 ダニエルは態とらしく微笑んだ。ポーレットはその素晴らしい考えを実行に移そうと自分の電話を取り出した。アイリーンは少し不満そうな顔をしている。

 「ありがと。で、なんで…ああ、その…」

 ポーレットはダニエルが上着のポケットから「あの電話」を取り出すのを見て驚き、自分がさっきまで真面目に考えていたことが馬鹿らしくなった。ダニエルが電話を間近に眺めると、アイリーンは思わず立ち上がった。

 「で、君はここに何を保管してるんだ────大曲には?」
 「写真、情報、役に立つかもしれないもの何でもね」
 「何に、恐喝に?」
 「自己防衛よ。私は自分で世界を切り開くの、悪いこともする。必要とするときには皆ちゃんと私の傍にいる、それを知っていたいの」
 「で、どうやってこの情報を手に入れた?」
 「言ったでしょ、悪いこともする」
 「だが防衛することよりも危険な何かを手に入れた。それが何か知ってるのか?」
 「ええ、でも理解はできない」
 「そうだろうな。見せてくれ」

 アイリーンは電話に手を伸ばした。ダニエルは電話を彼女の手の届く範囲から離した。

 「パスコードを」

 それでも彼女は手を伸ばし続けていたので、やがてダニエルは前へ寄って彼女に電話を渡した。受け取って彼に画面と文字盤が見えないように持つとアイリーンはパスコード入力をした────が、電話は警告音を鳴らした。

 「動かない」

 ダニエルは立ち上がって彼女から電話を取り上げた。

 「いや、それは僕が作った複製だからだ、君が入力した番号が入ってる、1058か」

 彼は彼女が座っていた椅子へ歩み寄り、クッションの下から本物の電話を回収した。ポーレットは北叟笑んだ。

 「君はもっと特殊なものを選んでいると思っていたんだが、うん、とにかくありがとう」

 ダニエルは「I AM _ _ _ _?LOCKED」の画面を出し「1058」と入力した。そして満足気にアイリーンを見たが、電話は警告音を鳴らし、「パスコードが間違っています、あと1回」とメッセージが表れた。彼は信じられず画面を凝視した。

 「その電話は私の命だって言ったでしょう。私の手にある時はわかるわ」
 「ああ、君は随分賢いんだな」
 「あなたも悪くないわよ」

 アイリーンはまた手を伸ばしてダニエルから電話を受け取った。ポーレットは激しく視線を絡ませる二人を見て顔を顰め、出し抜けに言った。

 「ヘイミッシュ」

 見つめ合っていた二人はポーレットの方を向いた。

 「ヘイミッシュ・ブラッドフォード。────子供の名前、考え中なの」

 ダニエルは困惑して眉を顰めた。

 「男がいた────MOD(防衛省)の。彼が好きなものを知ってたの」

 男たちから少し距離を取って歩くので、彼らは画面と文字盤を見ることができなかった。彼女は本当のパスコードを入力し写真を呼び出した。

 「彼が好きだったもののひとつは、ひけらかすこと。私にこのメールが世界を救うことになるだろうって言ってた。彼は知らなかっただろうけど、私それを写真にしたの。彼はちょっと時間に追われてた、その画面のはちょっと小さいわね────読める?」

 ダニエルはポーレットの向かいの椅子に座り、写真に目を凝らした。メールの冒頭は────恐らく、件名────「007 配置確定」小さな印刷の下に数字の列がある。

 『4C12C45F13E13G60A60B61F34G34J60D12H33K34K』

 「なるほど」
 「暗号ね、明らかに。国内で一番の暗号の専門家にそれを見せたの────でもほとんど混乱してたわね、憶えてる限りでは。解読できなかった」

 ダニエルは前に屈み、画面に集中していた。

 「あなたができることは何、ブラッドフォードさん?」

 彼女は彼の肩に屈み込んだ。

 「やってみて。女の子を────感動させて」

 アイリーンがダニエルに屈み込み始める。彼女の交渉────暗号の数字がダニエルの心を明らかに掻き立てて形を成し始めた。彼女が屈み込んで彼の頬にキスするまでに彼は数字とアルファベットの組み合わせを一瞬の内に頭に描き、既に解読していた。ダニエルの目は微笑みながら顔を引くアイリーンの方へ一瞬泳いだが、再び画面に集中して早口で話し始めた。

 「誤差はあるが明日の午後六時にヒースローからボルチモアへ発つ747機だというのはかなり確実だな。これが世界を救うらしい。どうやって実現するのか不明だが、ちょっと待ってくれ、八秒間事件だけに没頭する」

 彼は呆気にとられているポーレットの顔を見て、まだ完全に立ち上がっていないアイリーンを一瞥した。二人はまだ何がなんだかわかっていない様子だった。

 「ああ、ほら。暗号じゃないんだ。旅客機の座席表だ。見ろ、「I」の文字がない、「1」の間違いになり得るからだ、「K」の後の文字はない────飛行機の幅に限度があるんだ。数字は常にランダムで連続していないが文字は全ての飛行機で若干連続するものだ-家族やカップルが一緒に座るからな。ジャンボ機だけは「K」か55を超える文字を必要とする、常に上の階もあるからだ、13の列がある、このことから迷信を信じる航空会社は除かれる。それからフライト番号の────007(ゼロ・ゼロ・セブン)────それでさらに対象は除外される、情報の出典元を論理的に考慮して当然イギリス本土の地点だ、そして最近君への圧力が高まったことから重大な局面が迫っていることがわかる、すべての基準を満たし今週の内に出発するフライトは明日の午後6:30にヒースロー空港からボルチモアへ発つ便だけだ」

 ダニエルは今では立ち上がっていた。電話を下ろしてアイリーンを見て、彼女は称賛の眼差しで彼を見つめていた。

 「ああ、「素晴らしい」とか「凄い」とか言おうとしなくていい。同じ感想をジャクリーンが思いつく限り、ありとあらゆる言葉で表現してくれたからな」
 「…この机で私と一戦交えない?あなたが二回許しを乞うまで」

 二人はダニエルが再び話し出すまで暫く見つめ合っていた。

 「ポーレット、フライトの予定を確認してくれないか、僕が合っているかどうか?」

 ずっと熱烈な視線を絡み合わせている二人に圧倒されて、ポーレットはぼんやりしていた。

 「ん??うん。やる、……うん」

 咳払いをして、ポーレットはラップトップに入力し始めた。アイリーンはまだダニエルを見つめている。

 「僕は人生で許しを乞うた事は無い」
 「二回よ……」

 アイリーンが熱烈な視線を送っている最中、ポーレットは画面を見ながら唸った。

 「ああ、やった、間違いない!ああ、007(ダブル・オー・セブン)便だよ!」

 それを聞いてダニエルの表情が少し変わり、ポーレットの方へ顔を向けた。

 「何て言った?」
 「間違いない!って」
 「いや、いや、違う、その後だ。その後に何て言った?」
 「ダブル・オー・セブン。007(ダブル・オー・セブン)便」

 その言葉が何か訴えかけてきたらしく、ダニエルは小声で独り言を呟き出した。

 「ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン...」

 そしてアイリーンを押しのけると、彼は歩き回り始めた。

 「…何か…「ダブル・オー・セブン」と繋がる何か…何だ?」

 彼は歩き回り続け、数字を自分につぶやき続けた。アイリーンはその様子を見ながら、電話を背中に隠して画面を見ずに入力した。

 ────『747 TOMORROW 6:30PM HEATHROW [747 明日 午後6:30 ヒースロー]』




 黒いコートにサングラス。国会議事堂にとても近いウエストミンスターにいる彼は電話を取り出しメッセージを読んでいた。



 『From Archibald』




 場面は221Bへ。ダニエルは暖炉へ歩み寄り、目を閉じて鏡の前に立っていた。

 「ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、何だ、何だ、何か、何だ?」

 するとある光景が浮かんで、彼は目を見開いた。向きを変えてリビングのドアを眺めながらメイナードがその踊り場に立ち、電話で話している様子を思い出していた。それはダニエルとポーレットがアイリーンの家から戻った翌朝、メイナードが221Bにやって来ている時に何処からか連絡を受けているところだった。

 「Bond Airは行う」

 ダニエルはドアへ歩み寄った。

 「Bond Airは行う…Bond Airは行う」





 ダニエルの心の中で言葉が反響すると、ウエストミンスターのアーチボルドは電話にメッセージを入力していた。

────『 Jumbo Jet. Dear me Mr Bradford, dear me. [ジャンボ機か。ミスターブラッド・フォード、なんとまあ。]』

 彼は送信ボタンを押し、メッセージを送った。





 メイナードの家・邸宅・装飾的な仕事場で彼はダイニングテーブルから電話を取り、新しく届いたメッセージを見た。それは先程アーチボルトが送った「Jumbo Jet. Dear me Mr Holmes, dear me.」だった。




 時は経ち、メイナードはダイニングテーブルの端の椅子に戻りそこに沈み込んでいた、顔を手で覆い、明らかに事の成り行きにショックを隠しきれていなかった。




 さらに時は過ぎ、メイナードは上着を脱いで前にブランデーのグラスを置いていた。手を口にあてがい、目を見開き、不安そうに考えをめぐらせていた。




 さらに後、夜になり始めていた。メイナードは怒りで顔を歪め、目はまだ彼だけが知っている恐怖により大きく開かれていた。そばにあるグラスは空になっていた。ゆっくりと目を閉じ、絶望した様子で顔を手に埋め、頭を抱えた。





 夜。221B。ダニエルは肘掛け椅子に座り、そっとバイオリンの弦を爪弾いていた。部屋は薄暗く、暖炉の火だけが辺りを照らしていた。彼の心の中にはまだメイナードが電話に話す声が響いている。

 『Bond Airは行う、決まったことだ。コベントリーについてよく確認しておけ』

 ダニエルは漸く、少しだが奮起して顔を上げた。

 「……コベントリー」

 アイリーンはまだダニエルのガウンを着ていて、ポーレットの椅子に座って彼を傍で見ていた。

 「行ったことない。いい所?」
 「ジャクリーンは何処だ?」
 「ちょっと出掛けるって」
 「……話していたのに」
 「あなたがそれをやるって彼女も言ってた。コベントリーで何かあったの?」
 「物語だ、たぶん事実ではない。第二次世界大戦中、同盟国はコベントリーが爆撃されると知っていた、ドイツの暗号を解読したからだ、だが彼らはドイツに暗号を解読したことを知らせたくなかった、だから結局、それは起こった」
 「ねえ、今まで誰かとしたことある?」

 ダニエルはぽかんとして彼女に顔を顰めた。

 「…な、何を?」
 「私が「した」と言う時は、淫らな意味なの」
 「意味がわからないな」
 「私って美味しいのよ」

 椅子から離れ、彼女は跪いてダニエルの前に近づいた、左手を彼の右手の上に載せ、指を周りに絡ませた。

 「お食事しましょ?」
 「なぜ?」
 「お腹は空いてる?」
 「空いてない」
 「素敵」

 躊躇しながら、ダニエルは少し前に寄るとゆっくりと右手を伸ばし、指を彼女の手首に絡ませた。

 「空腹でもないのに、なぜ食事をしたがる?」

 アイリーンはゆっくり前へ屈み込んだ、彼女は彼の唇を熱心に見つめた。

 「ああ、ブラッドフォードさん…」

 ダニエルの指は優しく彼女の手首を撫でていた。

 「…もし世界が終わるなら、もしそれがまさに今夜なら、私と一緒にお食事してくれる?」

 そこへ突然、部屋の外から声がした。

 「ダニエル!」

 ダニエルの視線はドアへと移り、アイリーンは悲しそうに視線を落とした。

 「……遅かった」
 「世界の終わりじゃない、大家さんだ」

 大家がやってくる前にアイリーンは手を離して立ち上がると彼から離れ、彼も椅子に座り直した。大家は宮殿の侍従と入って来た。

 「ダニエル、この人ずっとドアの所にいたのよ。ベルはまだ動かないの?」

 大家は侍従の方を向き、ダニエルを指した。

 「この人ったら銃で撃ったのよ」
 「…君はまた僕を連れていこうとしてるのか?」
 「そうです、ブラッドフォードさん」
 「お断りだ」

 侍従は上着から封筒を出し彼に差し出した。

 「そうなさるとは思いませんが」

 ダニエルは彼からひったくるように封筒を取って中を開けた。それはFlyaway Airwaysビジネスクラスの搭乗券でダニエルの名前があり、007便ボルチモア行き、18:30発の予定だった。





 すぐ後で、ダニエルはコートを着てアパートの外で車の後部座席に乗り込んでいた。侍従が助手席に座ると車は走り出し、アイリーンは221Bの窓辺に立って彼らが出発するのを眺めていた。


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