狩人たちの集い場




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[446] 『ボヘミアの醜聞』#6

投稿者: もふぇりんぎ 投稿日:2018年12月13日(木)22時05分40秒 p564094-ipngn200310otsu.shiga.ocn.ne.jp  通報   返信・引用   編集済

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 窓辺には可愛らしいライトとオーナメントが色とりどりに輝いていた。時は過ぎ、今日はクリスマス。外では雪が降っている。221Bのリビングもデコレーションとカードでクリスマスらしく赤と緑で飾り付けされていた。ダニエルは「We Wish You A Merry Christmas」をバイオリンで弾きながら部屋の中を歩いている。大家はグラスを持ってダニエルの椅子に座り、楽しそうにそれを眺めていた。ジェイデンもお親と同じくグラスを持ってキッチンの入口に立っている。ダニエルが仰々しく曲を終えると、ジェイデンは感謝を示す口笛を吹いた。

 「素敵よ!ダニエル、すてきだったわ!」

 大家はどうも少し酔っているらしく、ダニエルへくすくすと笑いかけた。

 「トナカイの角をつけたら良かったのに!」
 「想像に留めておく方が良いこともあるんだよ、大家さん」

 ジェイデンは大家の酔いを冷まそうとお茶を渡した。

 「はい」

 20代と見られる男性がトレイにひき肉のパイとケーキの切れ端を載せて持って来てダニエルに勧めたが、彼は丁重に断った。

 「僕は結構、カーター」

 カーターは表情を暗くさせたので、ジェイデンはきまり悪そうにカーターに離れるよう誘導した。すると、新しい訪問者が来てダニエルはドアの方を見た。

 「……!」

 ポーレットだ。照れ笑いをしながらプレゼントがいっぱいのバッグを二つ持っている。

 「どうも、皆さん。すみません……どうも!」

 ジェイデンは微笑みながら彼女を歓迎しに行った。

 「あの、だいぶ遅れちゃったかな?」

 皆は彼女を楽しげに迎えた。ダニエルは視線を逸らして皮肉混じりに言った。

 「皆が互いに挨拶を交わす、素晴らしいな!」

 緊張した面持ちでダニエルに向けて微笑みながら、ポーレットはコートとマフラーを取り始める。ダニエルはそれを受け取ろうと傍に立った。

 「僕が、持っ………凄いな」

 ポーレットは普段着ないような、とても魅力的で胸元の空いたちょっとセクシーな黒いドレスを見に纏っていた。ダニエルに続き、ジェイデンも同じくその姿に驚きながら彼女に見惚れた。

 「ワォ、良いね」
 「クリスマスの乾杯はもう?」

 ダニエルはコートを掛けてテーブルの前に座り始めたが、大家の酔いは未だに覚めず、まだ上機嫌のようだった。

 「一年の内で一日くらい二人とも私に良くしてくれなくちゃ、まさにそんな日ね!」

 もじもじしながら含み笑いをするポーレットの視線は、ラップトップを眺めているダニエルに向けられていた。それを見たジェイデンはポーレットへ椅子を運んだ。

 「どうぞ、座って」
 「警部さん」
 「ん?」

 ダニエルが見ているものを見ようとジェイデンが歩み寄ると、カーターはポーレットの腕に触れて注意を引いた。

 「何か飲む?」

 ポーレットが彼に応じているとジェイデンはダニエルの肩越しに画面を眺めた。

 「ジャクリーンのブログのカウンターだ、まだ1895だなんて言ってる」

 ふざけて怒ったような顔でジェイデンは口を開いた。

 「ああ、駄目だ!クリスマスは中止だな!」

 ダニエルが指したブログのサイドバーには、彼が鹿撃ち帽を被っている新聞の写真があった。

 「ジャクリーン、あの帽子を被ってる写真を載せたな!」
 「みんな意外とその帽子が好きみたいだぞ」
 「そんなことはない。────みんなって何だ?」

 ダニエルはパソコンを見続けていたが、ジェイデンは離れた。ポーレットは大家の方を向いた。

 「最近、腰はどうです?」
 「ああ、もう大変。心配してくれてありがとうね」
 「でもまあ、前にダニーと行ったミンチ機殺人現場に比べれば……」

 ぎこちない沈黙が起こり、ポーレットはきまり悪そうになった。

 「あ、いやだ、ごめんなさい」
 「その冗談は止した方がいい、ジャクリーン」
 「……ごめんなさい」

 ジェイデンは彼女に赤ワインのグラスを渡した。

 「どうも。警部さん、クリスマスはドーセットにいらっしゃるかと」
 「朝一番にな。俺と……今、同僚に気になるヤツが居て────で、帰るんだ一緒に。万事うまくいってる」

 彼はにこりと笑った。すると、ダニエルはラップトップから目を離さずにいつもの癖が出てしまった。

 「いや、その同僚の女は体育教師と寝てる」

 それを聞いてジェイデンの笑顔は固まった。ポーレットは大家が座る肘掛け椅子に寄り添っているプレゼントの方を向いた。
 カーターが胸を撫で下ろしたのを見て、ダニエルはそれに構わず得意気に新しい話題を持ち出した。

 「新しい友達ができたみたいだな、ポーレット。彼は君に本気だぞ」
 「え、何?」
 「もっと言えば、君はこの特別な夜に彼に会っている、そして彼にプレゼントを」

 ジェイデンはテーブルからグラスを取りダニエルのそばに置きながらダニエルを睨んだ。

 「おい、今日はやめとけ、黙って飲めよ」
 「ああ、ほら。確かに君はプレゼントをバッグの一番上に見せて────リボンで完璧にラッピングされてるよ。他のは存外なのに」

 彼は立ち上がってポーレットへ歩み寄り、他のプレゼントよりも愛情が込められた包装であることを示した。

 「特別な誰かのためだ、そう」

 彼は意気揚々と、特別に包まれたプレゼントを取り上げた。

 「赤い色合いは君の口紅の色を反映している────無意識に連想したのか、わざと元気づけようとしたのか────両方だろう。どちらにしろ新しいお友達はポーレット・ハクルートに恋をしている。彼が彼女に真剣なのは、プレゼントを渡すことから明らかだ」

 カーターが心配そうにポーレットの様子を窺うと彼女はダニエルの前で不安そうにモジモジしていた。ダニエルは構わず「得意の推理」を続けた。

 「それは長い間の願いだった、どんなに惨めでも。そして彼が今夜彼女に会っていることは化粧と服装から明らかだ」

 自己満足してジェイデンとカーターに笑みを向け、プレゼントに添えられているギフトカードを開き始めた。

 「こんなものを贈る奴なんてきっと…」

 だがカードを開いてそこに書かれていることを見ると彼の声は次第に小さくなった。中には赤いインクでメッセージが書かれている。


 ────大好きなダニーへ、愛してる。ジャクリーンより
Dearest Daniel Love Jacqueline xxx

 ダニエルはショックを受けてその言葉を見つめ、恐ろしいことをしてしまったことに気付いた。ジャクリーンは静かに喘ぎながら言った。

 「…いつもそうやって酷いことを言うよね。毎回。いつも、いつも」

 彼女が涙を堪えるとダニエルは立ち去ろうとした様に思われたが、立ち止まって彼女のところへ戻った。

 「悪かった、許してくれ」

 ジェイデンは友人がそんな『人間らしい』リアクションをしたことに驚き、呆気に取られて顔を上げた。ダニエルはポーレットに歩み寄りそっと囁いた。

 「メリー・クリスマス、ジャクリーン」

 彼は前へ屈み、彼女の頬に優しくキスをした。それは甘く美しい瞬間だったが、直後にあの色っぽい吐息が鳴って台無しになってしまった。ポーレットは驚いてはっと息を呑む。

 「違う!それは…私じゃ…」
 「いや、僕だ」
 「何だ!お前の声か!」
 「電話だ。」

 彼は上着のポケットを探り電話を取り出した。大家は鬱陶しいものを見るかのように目を細めた。

 「57」
 「ん、何だ?」
 「57通目よ────その音を聞いた回数」

 ダニエルはメッセージを見た、それは簡潔だった。

 『マントルピース』

 ダニエルはマントルピースへ歩み寄りながら悪態をついた。

 「数えていたとは恐ろしいな」

 ダニエルは赤い血の色の紙と黒い縄のような紐でラッピングされた小さな箱を取り上げた。すぐに彼はアイリーンの口紅の色を思い出した、それはこの紙の色と同じだった。

 「失礼」

 彼はキッチンの方へ去った。

 「何───どうしたの、ダニー?」
 「ちょっと失礼すると言ったんだ」

 ポーレットが後ろから呼びかけるもダニエルはどんどん廊下を歩いて行ってしまう。

 「返信してたの…?」

 ダニエルは寝室へ入り、ベッドに座って箱を開けた。中にはアイリーンの電話があった。箱から取り出して間近に眺め、考え込みながら遠くを見つめた。





自宅-もしくは首相官邸か、ただの上等な雰囲気のオフィス────メイナードは暖炉の傍に座っていた。電話が鳴ったので上着から取り出して発信者を見ると、「これは大変だ!」という表情になって、電話を耳に当てた。

 「おお、どうした。クリスマスに電話で話をするつもりなんてなかっただろう?新しい法律でも出来たか?」
 「あんたは今夜アイリーン・アドラーを見つけられる」

 ポーレットは寝室の入口にやってきてそこで会話を聞いていた。

 「我々は既に彼女がどこにいるか知っている。お前が充分親切に指摘してくれたおかげで大した問題ではなかった」
 「違う、死んでいるのを発見するという意味だ」

 突然通話を切り、彼は立ち上がって寝室のドアに向かった。

 「……大丈夫?」
 「ああ」





 バーソロミュー病院。
 ダニエルとメイナードは遺体安置室に入っていった。女性の法医学者が白衣を来て、中で待っていた。三人の前のテーブルにはシートに包まれた遺体が横たわっている。

 「説明に合致するただひとつの遺体だ。運ばれてきた────お前の家のようなこの場所に」
 「君は来なくても良かったのに、すまないね」
 「良いわ。他の人は忙しくて…クリスマスで」

 ぎこちなく眺めながら彼女は遺体に手を伸ばした。

 「顔はちょっと、いくらか潰れていて、だから判別は難しいと思います」

 顔が見えるようにシートを剥ぐ。

 「彼女なんだろう?他の部分も見せてくれ」

 顔を顰めながら法医学者はテーブルに沿って歩き、シートを引いていった。ダニエルは遺体の全体を見て、振り返って立ち去り出した。

 「…彼女だ」
 「ありがとう、それでは」
 「誰なんです?どうやってダニエルは彼女だって分かったんです…顔も見ずに」

 メイナードは慇懃に彼女に微笑んだ、そして向きを変えて弟についていった。





 メイナードは廊下で窓の外を眺めるダニエルの姿を見つけた。傍に歩み寄ると、煙草を取り出した。

 「一本だけ」
 「なぜ?」
 「Merry Christmas.」

 ダニエルは煙草を取り、メイナードはライターを出そうとコートのポケットを探った。

 「屋内での喫煙────禁じられてるんじゃないか…法律とやらで?」

 メイナードは煙草に火を点けてやった。

 「遺体安置室にいるんだ。ダメージは大したことなかろう」

 ダニエルは深く吸い込んで煙を吐き出した。

 「弟よ、どうやって彼女が死んだことを知った?」
 「彼女は道具を持っていた、命がかかっていると言っていたものを。諦めることを選んだんだ」

 彼は煙草をまた吸い込んだ。

 「その道具は今どこに?」

 ダニエルは啜り泣く音を聞き、辺りを見渡した。廊下の端のドアの向こうに家族と思われる三人の人物が立っていて、互いに寄り添いながら親しい誰かの死を深く悲しんでいた。ダニエルと兄は振り返ってその家族を見つめた。

 「見ろ。大いに労り合っている。僕らは可笑しいかもしれないなんて考えたことは?」
 「全ての命は尽きる。すべての心は傷つけられる。労りは強みではない、ダニエル」

 ダニエルは大きく煙を吐き出し、うんざりして煙草を見た。

 「…これはタールが少ない」

 ダニエルは廊下を歩き去った。

 「Merry Christmas、メイナード」
 「And a happy new year.」





 弟が廊下の端のドアから出ていくとメイナードは電話を取り出してスピードダイヤルを押した。相手はポーレットだった。

 「ダニエルは帰り道だ。何か見つけたか?」
 「……いえ。あっ、煙草を受け取りました?」
 「ああ」
 「もう。大家さん、もうすぐ帰って来ますよ!10分で」
 「ええ…寝室には何もないわよ」
 「ダニーは何ともないようですが────僕らは通常見る場所は探しましたよ。今夜が危ないってのは確かなんですか?」
 「いや、だが私が間違ったことはないのだ。傍にいてやってくれ、ポーレットくん」
 「でも予定が……」

 メイナードは通話を切った。

 「メイナードさん。M…」

 電話が切れていた事に気付いたポーレットはソファに座っているジェイデンの方へ行き、傍に座った。

 「すみません、折角来て下さったのに……」
 「ダニエルはすげえラッキーな男だな」

 ポーレットは呻き声をあげた。

 「ごめんなさい、そんなつもりじゃ……ケーキならまた焼きますから」

 苦々しく靴を履きながらジェイデンは溜息をついた。

 「いいよ、別に。心が温まるな。アンタはアイツの為なら何でもする────そしてアイツは、君の友達にさえ容赦しないんだな」

 ジェイデンはソファを離れてドアへ向かった。ポーレットは飛び上がってコートを着る彼に着いて行く。

 「違うんです、私だって友達として出来る限りのことはします。だからせめて、何ができていないか言って下さい」
 「アンタは……アンタはダニエル・ブラッドフォードに騙されてる」
 「そんな事ありません!」
 「扱き使われてるだけだ」

 バッグを取り上げ、彼が階段を掛け降りていくと、ポーレットは憤慨して部屋に戻っていった。それを見た大家は彼女に同情して肩を撫でた。





 少し経って。ポーレットが彼の椅子に座って本を読んでいると、ダニエルが階段を昇ってきてリビングの入口で立ち止まった。そして彼は彼女の方を見た。

 「ああ、やあ」

 ダニエルはそこに立ってリビングを宛もなく見回していた。

 「……だいじょうぶ?」

ダニエルはしばらく部屋をじろじろと眺めると、振り返ってキッチンのドアの方へ行き、寝室へ向かった。ポーレットはその様子を終始、眠たげな表情で見つめていた。

 「今回は靴下の引き出しが荒らされてないといいな」

 寝室の扉がバタンと閉じられた。ポーレットは本を置いて深く溜息を吐いた。



 ……To be continued.


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